日本語で読めてイスラーム入門に役立った本

日本語で読めてイスラーム入門に役立った本

2020年4月25日

「イスラームに興味があるんですが、何かおすすめの本はありませんか?」

「日本人でイスラームに興味を持っている人に本を紹介したいんですが、何かいい本ありますか?」

などと聞かれることがたまにあります。

私自身もイスラーム初学者ですが、3年間で読んだ本の中から、イスラームの基本を知る助けになった本を紹介します。

イスラームに興味を持った方、イスラームに入信したばかりで何を読んだらよいかわからない方、イスラームに興味のある日本人にどんな本を勧めたらよいかわからない外国人ムスリムの方などの参考になりましたら幸いです。

イスラームの聖典『クルアーン』

『日亜対訳クルアーン』とアラビア語のムスハフ

イスラームの基本は唯一神アッラーのみを崇拝の対象とすることです。

アッラーは自身の言葉を人間の預言者(メッセンジャー)に託したとされます。

そしてイスラームでは最後の預言者がムハンマド(S.A.W)、ムハンマド(S.A.W)を通してアッラーが人類に伝えたメッセージが『クルアーン』だと信じます。

そのため、イスラームについて知ろうとする場合、『クルアーン』を読まなくてはなりません。

ただし、『クルアーン』はアッラーが天使ジブリールを通じてムハンマド(S.A.W)にアラビア語で下されたものです。

他言語に翻訳されたものは『クルアーン』としては認められません。

古典アラビア語を身につけ、原語で『クルアーン』を読み、『クルアーン』の解釈(タフスィール)も学んでいかなくてはならないでしょう。

とはいえ、日本人のわれわれにとってこれはハードルが高く感じられます。

「正確な翻訳は存在しえないにしても、日本語で『クルアーン』の内容を大まかに知りたい」と私も思いました。

そこで『クルアーン』の日本語訳を手に取ることになります。私も一番最初に読んだイスラームの本は日本語訳された『クルアーン』でした。

今、私の本棚にはアラビア語の『クルアーン』の他に、以下の日本語訳された『クルアーン』があります。

  • 中田考(監訳)『日亜対訳クルアーン』作品社、2014年
  • 『日亜対訳注解聖クルアーン』日本ムスリム協会、1982年
  • 水谷周(監訳)・杉本恭一郎(訳補完)『クルアーン やさしい和訳』国書刊行会、2019年
  • ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷コンプレックス版『聖クルアーン 日亜対訳注解』2019年(※2020年8月11日加筆)

最初に手に取ったのは作品社の『日亜対訳クルアーン』です。

通読のしやすさから『クルアーン やさしい和訳』(第1版では間違いが多く、持っているのは修正された第2版)も読み、現在は再び『日亜対訳クルアーン』を読んでいます。

イスラームに入信する前から何度も読んでいますが、読む度に新しい発見があります。

しかも読んでいる時点の自分には捉えきれないものが常にたくさんあるのを感じます。

Tajweed Quran for Learning

日亜対訳 クルアーン――「付」訳解と正統十読誦注解

クルアーン:やさしい和訳

ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷コンプレックス版については2020年8月現在、応募多数のため無料送付の受付が停止となっています。

読みやすくわかりやすい入門書が欲しい方におすすめ

『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』『日本一わかりやすいイスラーム講座』

『クルアーン』の日本語訳を紹介しましたが、「そもそも『クルアーン』とは何かを含めてわかりやすくイスラームの概要を知りたい」と考える方は多いでしょう。

そんな方におすすめしたいのが以下の2冊です。

  • 中田考・天川まなる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』サイゾー、2020年
  • 勝谷誠彦・中田考『日本一わかりやすいイスラーム講座』アスコム、2015年

『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』

イスラームの基本的なことについて、マンガを読んで楽しみながら知ることができます。

天川まなるさんによるマンガは細部までとても美しく描かれています。

ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門

[参考記事]楽しくイスラーム入門!:中田考&天川まなる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』 

『日本一わかりやすいイスラーム講座』

こちらはマンガではありませんが、コラムニストの勝谷誠彦さんとイスラーム学者の中田考先生との対談形式で、イスラームについてわかりやすく知ることができます。

活字が大きくて読みやすく、イスラームについて知らない日本人が特に知りたいと思っているトピックに沿って進んでいきます。

イスラームを知る上で重要なポイントが簡潔に書かれています。

  • 一時限目:イスラームの人たちは、みんな好戦的なんですか?
  • 二時限目:「イスラーム国」事件の真相を教えてください
  • 三時限目:イスラーム教の何が魅力なんですか?
  • 四時限目:イスラームの人たちの考え方は、我々とどう違うんですか?
  • 五時限目:ユダヤ教やキリスト教と何が違うんですか?
  • 六時限目:イスラームは本当に世界を乗っ取るんですか?

日本でいちばんイスラームを知っている中田考先生に、灘高で同級の勝谷誠彦が教えてもらった! 日本一わかりやすいイスラーム講座

より詳しく知りたい方向けの本

イスラームの本

先の2冊よりもさらに踏み込んでまとめられている(と思われる)本を紹介します。

  • 松山洋平『イスラーム思想を読みとく』筑摩書房、2017年
  • 中田考『イスラーム入門』集英社、2017年
  • 中田考『イスラームの論理』筑摩書房、2016年

ちなみに、中田先生ご本人は、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』の次におすすめな本について、Twitterで下記のようにおっしゃられていました。

『イスラーム思想を読みとく』

イスラーム思想史を専門にされている松山洋平先生の本です。

序章は「日本のイスラーム理解」。

ムスリムでない日本人は、イスラームは「豚肉厳禁」「禁酒」「禁欲」「断食」「礼拝」といった戒律重視の「術の体系」であると誤解しがちです。

しかし、実際のイスラームは心の中に信仰をもつ(宗教儀礼よりも心の中で真実であると信じることが重視される)「信条の体系」として見ていくことが大切である、といったことがわかりやすく書かれています(酒を飲んでも豚を食べてもムスリム)。

そこから、そもそもイスラームの「信仰」とは何か、信仰と不信仰をめぐる神学的な背景、スンナ派の主要な神学潮流やそれらの中の対立構造、穏健派と過激派の見解の相違、イスラーム法学における解釈の正統性といったテーマが扱われます。

「イスラームとは何か」ということ、イスラームをキーワードに近現代の世界で起きたこと・起きていること、これから先の世界についての視野が広がりました。

イスラーム思想を読みとく (ちくま新書)

『イスラーム入門』

イスラームをめぐる重要な99のトピックについて解説されています。

「入門」とありますが、全くイスラームのことを知らない方には若干ハードルが高く、すでに何らかのイスラーム入門本を読んでいたり、高校世界史の知識がざっくりと頭に残っている方向けであるように感じました。

私はこの本の「序」が好きで、これまでに何度か読み返しています。

これからも「イスラームはわからない」という原点に何度も立ち戻りたいと思います。

イスラームの完全な理解は預言者ムハンマドだけにしかありえません。だから私たちに本当にイスラームが理解できる、と思うのは間違いです。私たちは自分が理解できることを理解するだけなのです。そしてそれで構わないのです。(p.17)

イスラームを異文化として理解することは、これまで当たり前であると思っていた自分たちの世界観が数ある世界観の一つに過ぎないこと、常識だと思っていたことがある文化の中でしか通用しない偏見でしかないことに気付くこと、つまりは、自己の理解の限界を自覚することによって、理解の地平を広げ自己変容を遂げることです。(pp.17-18)

──中田考『イスラーム入門』

イスラーム入門 文明の共存を考えるための99の扉 (集英社新書)

『イスラームの論理』

冒頭で、まず日本人である私たちとイスラームとの間には幾重ものベールがあることが述べられます。

そこから「イスラーム」そのものの漠然としたイメージや「先行理解=先入観」への反省から出発すべきだと説かれています。

そのためこの本では、私たち日本人がイスラームを理解しようというときに土台となっている認識そのものを問うべく、「イスラームと現代世界」「イスラームと日本」といったテーマからスタートしているのです。

その後で「アッラー」や「預言者ムハンマド」「ウンマの歴史」といったイスラームの教義や歴史についての重要なテーマについて説明されていきます。

結果的に、

「自分は普段世界をどう見ているのか(どのような認識に縛られているのか)」

「世界と自分との関係はどうなっているのか」

「この世界の中で自分はどう生きるのか」といった問題と向き合うことになります。

イスラームについて考えることは、自分がいるこの世界(時間・空間の両者を含む)について考えることと同じだということに気づかされるのです。

2回読んだのですが内容はまだまだ消化し切れていないと思います。他の本も読んで視野を広げつつ、今後も繰り返し読みたい本です。

イスラームの論理 (筑摩選書)

[参考記事]日本の哲学(?)とイスラームの地平融合へ:中田考先生『イスラームの論理』

その他に読んだ中田先生の本

ここまで紹介してきた本以外に、『私はなぜイスラーム教徒になったのか』『イスラーム 生と死と聖戦』といった本も読んでいます。

イスラームについて、そしてムスリムとして生きていくことについて、外国人ムスリムの方との関わり方や感覚の違いについてなど、普段からモヤモヤと考えていたことについて、理解を深めさせていただきました。

電子書籍で一度読んだだけなので、また読み返したいと思います。

私はなぜイスラーム教徒になったのか

イスラーム 生と死と聖戦 (集英社新書)

クルアーンについての基礎知識を得ることができる本

クルアーンについての本

最初の方で日本語訳された『クルアーン』を紹介しましたが、『クルアーン』自体をテーマにした本もあります。

  • 松山洋平編『クルアーン入門』作品社、2018年
  • 中田考・橋爪大三郎『クルアーンを読む』太田出版、2015年

『クルアーン入門』

『クルアーン入門』は500ページほどある分厚い本ですが、内容自体は平易に書かれていて読みやすいと感じました。

「クルアーンとは何か」「クルアーン解釈の方法とは」といった内容の他に、「クルアーンとジハード」「クルアーンとジェンダー」「クルアーンの読み方とヘブライ語聖書の読み方」「クルアーンにおけるイエス」「ムスリムからみたブッダ」といった現代の私たちにとって興味深いトピックについても収録されています。

「アラビア語の学び方」「スンナ派とは何か」「イスラーイーリヤート」といった興味深いコラムも楽しめます。

『クルアーンを読む』

『クルアーンを読む』は、中田先生と社会学者の橋爪大三郎先生との対談形式の本です。

さまざまな文明、宗教、正典の比較の中で、「『クルアーン』とは何か」が掘り下げられていきます。

橋爪先生が非ムスリムの立場から中田先生に突っ込んだ質問をされたりしており、「神」「歴史」「法」といったことについても興味深い対話が展開されています。

後半ではシーア派やカリフ制についてとても興味深い内容になっていました。

クルアーン入門

クルアーンを読む (atプラス叢書13)

自分の不勉強さを感じつつ…今後もイスラーム・世界について学んでいきたい

ここまでブログを書いてきて、今まで読んだ本についての自分の理解の浅さを感じました。

自分に与えられたチャンスをもっと貪欲に生かして学ばなければいけないな、と思います。

コロナウイルスで外出自粛となっている今年のラマダーン、本もたくさん読みたいと思っています。

イスラームについて興味をお持ちの方も、ぜひいろいろな本を手に取ってみてください。