先々週から、アゴタ・クリストフという作家の『悪童日記』『ふたりの証拠』を立て続けに読んだのですが、今回は三部作の最後の一冊である『第三の嘘』にも手を伸ばし、読みました。
※ネタバレ的な内容も含まれますので、これから作品を読もうとされている方はお気をつけください。
これらは「『悪童日記』三部作」と呼ばれているのですが、1冊目だけを読む場合と、1冊目・2冊目を読む場合、1・2・3冊目全てを読む場合で、別の物語になるという面白い作品であると感じました。作者自身の意図も、1冊目・2冊目・3冊目を書く中で変化しているようです。
1冊目・2冊目を読んだ段階では、
- ①『悪童日記』:幼少〜思春期を迎えるまでの双子(リュカ・クラウス)の手記
- ②『ふたりの証拠』:思春期以降の、リュカ(故郷に残った)の手記
というふうに読めるのですが、3冊目では1冊目〜2冊目の手記の内容と矛盾する内容が書かれており、混乱させられます。
フィクションである作品の中に、フィクション(フィクション中フィクション)と、それ以外の部分(フィクション中ノンフィクション)が混在している形です。
どの部分が作品中フィクションであり、どの部分が作品中の事実なのかを仕分けしながら解釈していくことになります。
大まかには、以下のようになると思われます。
- ①『悪童日記』:幼少〜思春期を迎えるまでのリュカによる手記=フィクション
- ②『ふたりの証拠』:思春期以降の、リュカ(故郷に残らなかった)の手記=フィクション
- ③『第三の嘘』:リュカ(故郷に残らなかった方)とクラウス(故郷に残った方)の告白・回想
細部にこだわらずに大雑把に3冊読みとおしたにすぎませんが、再び1冊目『悪童日記』から3冊目までを踏まえて読み返してみるのも面白そうです。人物の相関関係や事件を整理し、作品中のフィクションの題材となったであろう作品中の事実を線で結んだりしながら・・・。
なお、訳者の堀茂樹氏は、「三部作完結篇として読者諸氏に提示したい」と言いつつも、「しかし、疑問がないわけではない」と「あとがきにかえて」で書いています。3冊目で作品中の事実と思われる箇所を事実として1〜3冊目を解釈したとしても、解消されない矛盾点や、謎が残るということでしょうか。
3冊目の「あとがきにかえて」には著者へのインタビュー記事が引用されていますが、著者自身は、自分の体験や周囲の出来事を最愛の兄と自分を双子に設定したうえでフィクションとして書いたといった発言をしています。
自分自身が体験したことのない戦時下の生活や、そこでの人間の心のあり方、錯綜する人生や人間関係が描かれており、とても興味深い作品でした。
個人的にはやはり、2冊目の『ふたりの証拠』が最も気に入っています。