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イスラーム国について知るための必読書:中田考先生『イスラーム国訪問記』

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イスラーム国について知るための必読書

中田考先生の『イスラーム国訪問記』を読み終えました。これまでイスラーム国については新聞などで報じられる断片的な情報にしか触れたことがなく、中田先生が書かれた他の本でほんの少しだけ知っていた程度です。イスラーム国がシリアとイラクの一部地域を一定期間実効支配したことは世界的/歴史的大事件であり、詳しく知りたいと思う人は多いのではないでしょうか。

しかし、私たちが得られるイスラーム国の情報のほとんどは、イスラームの知識の無い人の発言もしくはイスラームの知識はあっても現地に足を運んだことのない人の発言が多いという印象でした。そんな中、この本は現地に足を運んだイスラーム学者によって書かれたものであり、ノンムスリム(非イスラーム教徒)の日本人ジャーナリストの訪問記も含めてまとめられています。イスラーム国内で暮らすキリスト教徒へのインタビューも含まれ、カラー写真も掲載されていました。

イスラーム国の支配についてのアラビア語とイスラーム学を修めたイスラーム地域研究者の客観的な報告は一つも存在せず、本書は唯一の例外となる。イスラーム国は二〇一七年にはイラクの本拠地モスルとシリアの本拠地ラッカを失ったため、本書はイスラーム国の支配と国家運営の実態の一端を伝える貴重な同時代資料としてその価値を増している。──中田考『イスラーム国訪問記』

間違いなく、私たちが触れることのできるイスラーム国についての貴重な資料のはずです。

これまで、「彼らはイスラーム教徒ではない」とイスラーム国を批判する声は何度か耳にしましたが、違和感を覚えることが少なくありませんでした。タクフィールの問題(イスラーム教徒が、他の誰かを「不信仰者」と断定することを「タクフィール」と言い、スンナ派では避けるべきのもとされています。このタクフィールこそまさに、過激派と呼ばれる人々が他のイスラーム教徒に行っていることだとも言われます。また、ある行為がイスラーム的に正しいか間違っているかという問題と、行為者がイスラーム教徒であるかそうでないかは別の問題です。これらについて、松山洋平『イスラーム思想を読みとく』に詳しく書かれています)もあるのですが、そもそも「イスラーム国について無知である」上で「断定している」ということに強い違和感がありました。

ともかく、多くのバイアスがかかった可能性のある二次情報・三次情報などではなく、実際に現地に足を運んだ方のリアルな記録からイスラーム国について少しでも知ってみたいという思いで本を手に取りました。

この本ではイスラーム国の人々の生活の一端を知ることができ、また、イスラーム法上の異教徒の扱いについてまとめられており、実際に現地に暮らすアルメニア人クリスチャンへのインタビューが収録されていたのもとても貴重なことでした。インタビューの中には、不満がないわけではないけれども、イスラーム国によって良い(イスラーム国による支配以前と変わらないか、以前よりも良い)扱いを受けているという声もありました。

現地での見聞や現地に暮らす異教徒の声、イスラーム国の成立過程やその意義についてもまとめられているため、イスラーム国について知りたいという方には必読の本だと思います。

食事の写真も掲載されていましたが、美味しそうです。イラク戦争が始まる直前に読んだ『イラクの小さな橋を渡って』に、食べ物が美味しいという記述があったことをふと思い出しました。

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