読書 | Reading

日本語で読めてイスラーム入門に役立った本

イスラームの本

「イスラームに興味があるんですが、何かおすすめの本はありませんか?」

「日本人でイスラームに興味を持っている人に本を紹介したいんですが、何かいい本ありますか?」

などと聞かれることがたまにあります。

私自身もイスラーム初学者ですが、3年間で読んだ本の中から、イスラームの基本を知る助けになった本を紹介します。

イスラームに興味を持った方、イスラームに入信したばかりで何を読んだらよいかわからない方、イスラームに興味のある日本人にどんな本を勧めたらよいかわからない外国人ムスリムの方などの参考になりましたら幸いです。

イスラームの聖典『クルアーン』

『日亜対訳クルアーン』とアラビア語のムスハフ

イスラームの基本は唯一神アッラーのみを崇拝の対象とすることです。

アッラーは自身の言葉を人間の預言者(メッセンジャー)に託したとされます。

そしてイスラームでは最後の預言者がムハンマド(S.A.W)、ムハンマド(S.A.W)を通してアッラーが人類に伝えたメッセージが『クルアーン』だと信じます。

そのため、イスラームについて知ろうとする場合、『クルアーン』を読まなくてはなりません。

ただし、『クルアーン』はアッラーが天使ジブリールを通じてムハンマド(S.A.W)にアラビア語で下されたものです。

他言語に翻訳されたものは『クルアーン』としては認められません。

古典アラビア語を身につけ、原語で『クルアーン』を読み、『クルアーン』の解釈(タフスィール)も学んでいかなくてはならないでしょう。

とはいえ、日本人のわれわれにとってこれはハードルが高く感じられます。

「正確な翻訳は存在しえないにしても、日本語で『クルアーン』の内容を大まかに知りたい」と私も思いました。

そこで『クルアーン』の日本語訳を手に取ることになります。私も一番最初に読んだイスラームの本は日本語訳された『クルアーン』でした。

今、私の本棚にはアラビア語の『クルアーン』の他に、以下の日本語訳された『クルアーン』があります。

  • 中田考(監訳)『日亜対訳クルアーン』作品社、2014年
  • 『日亜対訳注解聖クルアーン』日本ムスリム協会、1982年
  • 水谷周(監訳)・杉本恭一郎(訳補完)『クルアーン やさしい和訳』国書刊行会、2019年
  • ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷コンプレックス版『聖クルアーン 日亜対訳注解』2019年(※2020年8月11日加筆)

最初に手に取ったのは作品社の『日亜対訳クルアーン』です。

通読のしやすさから『クルアーン やさしい和訳』(第1版では間違いが多く、持っているのは修正された第2版)も読み、現在は再び『日亜対訳クルアーン』を読んでいます。

イスラームに入信する前から何度も読んでいますが、読む度に新しい発見があります。

しかも読んでいる時点の自分には捉えきれないものが常にたくさんあるのを感じます。

Tajweed Quran for Learning

日亜対訳 クルアーン――「付」訳解と正統十読誦注解

クルアーン:やさしい和訳

ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷コンプレックス版については2020年8月現在、応募多数のため無料送付の受付が停止となっています。

読みやすくわかりやすい入門書が欲しい方におすすめ

『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』『日本一わかりやすいイスラーム講座』

『クルアーン』の日本語訳を紹介しましたが、「そもそも『クルアーン』とは何かを含めてわかりやすくイスラームの概要を知りたい」と考える方は多いでしょう。

そんな方におすすめしたいのが以下の2冊です。

  • 中田考・天川まなる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』サイゾー、2020年
  • 勝谷誠彦・中田考『日本一わかりやすいイスラーム講座』アスコム、2015年

『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』

イスラームの基本的なことについて、マンガを読んで楽しみながら知ることができます。

天川まなるさんによるマンガは細部までとても美しく描かれています。

ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門

[参考記事]楽しくイスラーム入門!:中田考&天川まなる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』 

『日本一わかりやすいイスラーム講座』

こちらはマンガではありませんが、コラムニストの勝谷誠彦さんとイスラーム学者の中田考先生との対談形式で、イスラームについてわかりやすく知ることができます。

活字が大きくて読みやすく、イスラームについて知らない日本人が特に知りたいと思っているトピックに沿って進んでいきます。

イスラームを知る上で重要なポイントが簡潔に書かれています。

  • 一時限目:イスラームの人たちは、みんな好戦的なんですか?
  • 二時限目:「イスラーム国」事件の真相を教えてください
  • 三時限目:イスラーム教の何が魅力なんですか?
  • 四時限目:イスラームの人たちの考え方は、我々とどう違うんですか?
  • 五時限目:ユダヤ教やキリスト教と何が違うんですか?
  • 六時限目:イスラームは本当に世界を乗っ取るんですか?

日本でいちばんイスラームを知っている中田考先生に、灘高で同級の勝谷誠彦が教えてもらった! 日本一わかりやすいイスラーム講座

より詳しく知りたい方向けの本

イスラームの本

先の2冊よりもさらに踏み込んでまとめられている(と思われる)本を紹介します。

  • 松山洋平『イスラーム思想を読みとく』筑摩書房、2017年
  • 中田考『イスラーム入門』集英社、2017年
  • 中田考『イスラームの論理』筑摩書房、2016年

ちなみに、中田先生ご本人は、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』の次におすすめな本について、Twitterで下記のようにおっしゃられていました。

『イスラーム思想を読みとく』

イスラーム思想史を専門にされている松山洋平先生の本です。

序章は「日本のイスラーム理解」。

ムスリムでない日本人は、イスラームは「豚肉厳禁」「禁酒」「禁欲」「断食」「礼拝」といった戒律重視の「術の体系」であると誤解しがちです。

しかし、実際のイスラームは心の中に信仰をもつ(宗教儀礼よりも心の中で真実であると信じることが重視される)「信条の体系」として見ていくことが大切である、といったことがわかりやすく書かれています(酒を飲んでも豚を食べてもムスリム)。

そこから、そもそもイスラームの「信仰」とは何か、信仰と不信仰をめぐる神学的な背景、スンナ派の主要な神学潮流やそれらの中の対立構造、穏健派と過激派の見解の相違、イスラーム法学における解釈の正統性といったテーマが扱われます。

「イスラームとは何か」ということ、イスラームをキーワードに近現代の世界で起きたこと・起きていること、これから先の世界についての視野が広がりました。

イスラーム思想を読みとく (ちくま新書)

『イスラーム入門』

イスラームをめぐる重要な99のトピックについて解説されています。

「入門」とありますが、全くイスラームのことを知らない方には若干ハードルが高く、すでに何らかのイスラーム入門本を読んでいたり、高校世界史の知識がざっくりと頭に残っている方向けであるように感じました。

私はこの本の「序」が好きで、これまでに何度か読み返しています。

これからも「イスラームはわからない」という原点に何度も立ち戻りたいと思います。

イスラームの完全な理解は預言者ムハンマドだけにしかありえません。だから私たちに本当にイスラームが理解できる、と思うのは間違いです。私たちは自分が理解できることを理解するだけなのです。そしてそれで構わないのです。(p.17)

イスラームを異文化として理解することは、これまで当たり前であると思っていた自分たちの世界観が数ある世界観の一つに過ぎないこと、常識だと思っていたことがある文化の中でしか通用しない偏見でしかないことに気付くこと、つまりは、自己の理解の限界を自覚することによって、理解の地平を広げ自己変容を遂げることです。(pp.17-18)

──中田考『イスラーム入門』

イスラーム入門 文明の共存を考えるための99の扉 (集英社新書)

『イスラームの論理』

冒頭で、まず日本人である私たちとイスラームとの間には幾重ものベールがあることが述べられます。

そこから「イスラーム」そのものの漠然としたイメージや「先行理解=先入観」への反省から出発すべきだと説かれています。

そのためこの本では、私たち日本人がイスラームを理解しようというときに土台となっている認識そのものを問うべく、「イスラームと現代世界」「イスラームと日本」といったテーマからスタートしているのです。

その後で「アッラー」や「預言者ムハンマド」「ウンマの歴史」といったイスラームの教義や歴史についての重要なテーマについて説明されていきます。

結果的に、

「自分は普段世界をどう見ているのか(どのような認識に縛られているのか)」

「世界と自分との関係はどうなっているのか」

「この世界の中で自分はどう生きるのか」といった問題と向き合うことになります。

イスラームについて考えることは、自分がいるこの世界(時間・空間の両者を含む)について考えることと同じだということに気づかされるのです。

2回読んだのですが内容はまだまだ消化し切れていないと思います。他の本も読んで視野を広げつつ、今後も繰り返し読みたい本です。

イスラームの論理 (筑摩選書)

[参考記事]日本の哲学(?)とイスラームの地平融合へ:中田考先生『イスラームの論理』

その他に読んだ中田先生の本

ここまで紹介してきた本以外に、『私はなぜイスラーム教徒になったのか』『イスラーム 生と死と聖戦』といった本も読んでいます。

イスラームについて、そしてムスリムとして生きていくことについて、外国人ムスリムの方との関わり方や感覚の違いについてなど、普段からモヤモヤと考えていたことについて、理解を深めさせていただきました。

電子書籍で一度読んだだけなので、また読み返したいと思います。

私はなぜイスラーム教徒になったのか

イスラーム 生と死と聖戦 (集英社新書)

クルアーンについての基礎知識を得ることができる本

クルアーンについての本

最初の方で日本語訳された『クルアーン』を紹介しましたが、『クルアーン』自体をテーマにした本もあります。

  • 松山洋平編『クルアーン入門』作品社、2018年
  • 中田考・橋爪大三郎『クルアーンを読む』太田出版、2015年

『クルアーン入門』

『クルアーン入門』は500ページほどある分厚い本ですが、内容自体は平易に書かれていて読みやすいと感じました。

「クルアーンとは何か」「クルアーン解釈の方法とは」といった内容の他に、「クルアーンとジハード」「クルアーンとジェンダー」「クルアーンの読み方とヘブライ語聖書の読み方」「クルアーンにおけるイエス」「ムスリムからみたブッダ」といった現代の私たちにとって興味深いトピックについても収録されています。

「アラビア語の学び方」「スンナ派とは何か」「イスラーイーリヤート」といった興味深いコラムも楽しめます。

『クルアーンを読む』

『クルアーンを読む』は、中田先生と社会学者の橋爪大三郎先生との対談形式の本です。

さまざまな文明、宗教、正典の比較の中で、「『クルアーン』とは何か」が掘り下げられていきます。

橋爪先生が非ムスリムの立場から中田先生に突っ込んだ質問をされたりしており、「神」「歴史」「法」といったことについても興味深い対話が展開されています。

後半ではシーア派やカリフ制についてとても興味深い内容になっていました。

クルアーン入門

クルアーンを読む (atプラス叢書13)

自分の不勉強さを感じつつ…今後もイスラーム・世界について学んでいきたい

ここまでブログを書いてきて、今まで読んだ本についての自分の理解の浅さを感じました。

自分に与えられたチャンスをもっと貪欲に生かして学ばなければいけないな、と思います。

コロナウイルスで外出自粛となっている今年のラマダーン、本もたくさん読みたいと思っています。

イスラームについて興味をお持ちの方も、ぜひいろいろな本を手に取ってみてください。

楽しくイスラーム入門!:中田考&天川まなる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』

『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム』

中田考先生&天川まなるさんによる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』が昨日届き、楽しく読み終えました。

先日、同じく中田先生と勝谷誠彦さんの『日本一わかりやすいイスラーム講座』を読み、「イスラームに興味のある人に勧めたい!」と思ったのですが、この本もぜひお勧めしたいです。

イスラームに興味を持つ日本人の方の中には、外国人イスラーム教徒と知り合いという方もいるでしょう。

この本はマンガが入っているので、彼らと楽しくコミュニケーションするきっかけになるかもしれません。

実際に私もパラパラとページをめくりつつ、インドネシア人の妻と盛り上がりました(ムスリムのファッションのページなど)。

イスラーム教徒でない方がイスラームについて疑問に思うことについて、わかりやすく完結に説明されている本です。

また、マンガが面白い展開で進んでいくので、思わずどんどんページをめくってしまいます。

さらにマンガは細部まで美しく描かれているので、それをじっくり味わって楽しむこともできます。

『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』見開き

日本人以外のイスラーム教徒の方が、イスラーム教徒でない日本人にイスラームについて伝えたいときにも役立つと思います(日本語でイスラーム教について聞かれ、答えるのが難しいと感じている方も多いでしょう)。

活字だけだと最後まで読めない方やお子さまにもおすすめです!

来週からのラマダーン。私もこれまで手にしたイスラーム関連の本を再び(本によっては三度、四度!?)読み直してみようと思います。

ان شاء الله

中田考・天川まなる『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』

勝谷誠彦・中田考『日本一わかりやすいイスラーム講座』

想像していた以上にエモかった…閉塞した視野に光を与え、飲食店経営等のヒントも得られる本:池田達也さん『しょぼい喫茶店の本』

池田達也さん著『しょぼい喫茶店の本』が一昨日届き、すぐに開いて読み始め、一気に読み終えました。

延々と人の顔色をうかがい続ける。

自分で自分の評価ができない。

自分がこの場にいていいのか、常に誰かに許しを乞うている。

自分はちゃんとしているつもりでも、誰かの機嫌を損ねてしまっているかもしれない。じゃあ自分はもっとちゃんとしないと。もっとしっかり演じないと。もっともっと本当の自分を捨てて、だめな自分を見せないようにしなければ。そんな悪循環をどのバイト先でも繰り返した。働けば働くほど、本当の自分はだめなやつなんだという気持ちが強くなった。そんな気持ちが溢れてしまうと、パタッとバイトを辞めてしまう。そして、辞めてしまったことで、より一層自分はだめなやつなんだという気持ちが増していく。

だから、僕は働きたくなかった。──(pp.7-8)

というように、赤裸々な気持ちと冷静な分析が、共感しやすい文体で綴られていました。

この感覚は非常によくわかる、共感するという人は多いのではないでしょうか?もしこのような感覚を自分も感じつつモヤモヤした毎日を送っていたり、閉塞感の中で生きているという人がいるとしたら、この本はそんな閉塞しがちな視野に光を注いでくれるかも知れません。

しょぼい喫茶店ができるまでの経緯はTwitterでちらちらと拝見してはいたのですが、そこからは見えなかった池田さんの感じたこと・考えたことや、実際に動かれたことなどが綴られていました。

自分が深いところで感じていることや抱えていることは、言葉にするのが難しいものです。言葉にしようとしても、無意識にはぐらかしてしまったり、過剰に装飾・美化してしまったりして、自分自身が向き合うことを回避してしまいがちだと思います。しかし池田さんの文章はその部分に向き合い、ストレートな言葉で語りかけてきました。池田さんの経験を綴った文章を読む中で、自分自身が放っておいた感情に気付かされ、共感するという体験をしました。

実際に店舗を開くまでの経緯ももちろんですが、店舗を開いてから出会った壁や、それらをどう工夫して乗り越えたのか、どんな気持ちで仕事をされているのか…といったことが書かれており、気の持ち方やほかの人たちとの関わり方、飲食店のはじめ方など、いろいろな観点から参考になるものが多いと感じました。

私自身は、就職活動にモヤモヤとしたものを感じつつもほかの選択肢を見いだすこともなく、何とか内定をもらった企業を1カ月で辞めたという経験があります。その後も複数社で働きましたが、今はフリーランスに居心地の良さを感じています。

小学校⇒中学校⇒高校⇒大学と、学校という環境の中で過ごしてきて、就職活動⇒就職というレールから外れるのが難しい(自分の考え方として)、かといってレールに乗るのもきつい、あるいは乗れない、という状況で苦しんでいる人がいるとしたら、ぜひ手に取っていただきたい本です。

就職して心地よく生きていける人は就職して生きていけばいい。しかし、就職して心地よく生きていけない人にも、自分に合った生き方を模索する可能性は開かれていることを教えてくれると思います。

えらいてんちょうさんの『しょぼい起業で生きていく』や、その後の三部作(『しょぼ婚のすすめ』『静止力』、『ネットゲリラ戦術』)なども一緒に読めば、いろいろな可能性に目が開き、自分にとっての心地よい生き方を考え直す機会になるかも知れません。

生き方や感じ方は人それぞれ違いますが、こんな風に感じ、考え、生きている人がいるという事実を知ることが、自分自身の大きな勇気につながると思いました。

日本の哲学(?)とイスラームの地平融合へ:中田考先生『イスラームの論理』

6月末に中田考先生の『イスラームの論理』を再読し、その後、ナーブルスィーの『神秘哲学集成』を手に取りました(時間をかけて読むべき本だと思うので、ゆっくり読み進めています…というか、ゆっくりとしか読めない)。

1週間に5章くらいずつ『やさしい神様のお話』もゆっくり読み進めているのですが、ここでタウヒード(神の唯一性)について繰り返し説かれていることが、そのほかのいろいろな本の理解を深めるのに役立っていると感じています。

『やさしい神様のお話』を読み進めている中でふと頭に浮かぶのが、学生時代に興味を持っていた(しかしきちんと読んでいない)西田幾多郎の哲学です。たまたま6月末に亡くなった上田閑照さんの『私とは何か』(学生時代にゼミで一部が扱われた/西田幾多郎やブーバーの思想が紹介される)が手元にあったので、再読しました。この本を読んで考えたことも、別の記事に書くかもしれません。

ان شاء الله

『イスラームの論理』の冒頭では、現代日本からイスラームに迫るためには、複数のヴェールが間に挟まっているという認識をまず持たなくてはならないということが示されます。

  1. 日本語というヴェール
  2. イスラーム世界が持つヴェール(イスラム圏の人たちのイスラーム理解、およびそこから伝わるイスラームには、普遍宗教としてのイスラームだけでなく、その地域の文化的イスラームが溶解してしまっている)
  3. 日本文化・オリエンタリズムの二重のヴェール(戦後日本のイスラーム学は、西欧オリエンタリズムの価値観を内面化している)
  4. 国家というヴェール
  5. 時間のヴェール(時間の経過によるウンマ内での知の喪失とノイズの堆積)

です。

これらのヴェールを認識することなしに「イスラームと呼ばれているもの」をそのまま「イスラーム」として受け取ってしまうことは、大きな誤認に陥ってしまうということでしょう。そのためこの本では、あえて「イスラームと現代世界」「日本とイスラーム」といったところから話しが進められ、現代日本にいる私たちとイスラームの間にあるヴェールを可視化することを促しているように思えました。

資本主義、現代の偶像、イスラーム世界の植民地化、カリフ制再興、ハラール認証の偶像崇拝…といった興味深いトピックが取り上げられていきますが、中でも私が特に気になったのが、「日本とイスラーム」の「イスラーム・日本文化の現在」と「アッラー」です。

「イスラーム・日本文化の現在」のところでは、永井均先生の<私>を巡る哲学の言葉が引用され、[日本の思想→タウヒードの認識→「人格神神学」]という流れが紹介されていました。タウヒードの唯一神が、クルアーンをもたらしたアッラー(人格神)であると同定するのがイスラーム神学の大きな課題であるというのを読んだ気がするのですが、ここにつながるイメージを持ちました。

また、[日本の思想→タウヒードの認識→「人格神神学」]の流れは、現代日本で生まれ育った私自身がムスリムに目覚めた過程に重なってくるとも感じました(私自身は直感に導かれていた部分が大きいのですが、そこには論理的な道筋があるという感覚もありました)。

中田先生は永井先生の哲学について、「日本文化とイスラーム文化の地平融合を我々は今、目前としている」と書かれていましたが、現代日本で自分自身がイスラーム・タウヒードを深く理解しようとする過程において、自分の中で、自分なりにこの地平融合を追いかける(何かしらの理解が得られるかどうかはわかりませんが)ことが大きな意味を持つという感覚を持ちました。自分がいる場所(時間・空間)とイスラームをしっかり繋げて了解していく作業になるかも知れません。

ان شاء الله

「アッラー」の項では、「宇宙に神はいない」「神はどこにも存在しない」というところから話しが始まり、「神と宇宙の根本的乖離」がイスラーム神学の基本前提であることが示されます。世界/宇宙の内部に神なる存在を立てず、それを否定していることが、ムスリムになる直前に、イスラームが正しい宗教であると私が確信した根拠の1つだったと思います。

この本のさまざまなトピックを見ていくと、イスラームについて考えることは、自分がいるこの世界(時間・空間の両者を含む)について考えることと同じだということに気づかされます。現代日本(と限定することはないかも知れません)とイスラームの間にあるヴェールの存在を認め、その困難さを引き受けつつその先へ進もうとすること、そのことが自分と世界(今いるこの世界を外側から見る)を知っていくということだと思います。

世界を離れてイスラームがどこかにあるわけではない。イスラームとは世界の姿であり、神を知る者にとって、世界と己は一つである。結局は、世界を知ること、己を知ることを擱いてイスラームの理解は存在しない。──中田考『イスラームの論理』p.294

この本を読んで興味を持ち、永井先生の著書も発注しました。困難ではありますが、自分にできる範囲で、イスラームを世界から切り離して対象化する方向ではなく、自分のいる場所(空間・時間)から地続きの世界(その外側をも含む/イスラーム)をもっと知っていきたいと思います。

アラビア語を勉強しないとなぁ…。

ان شاء الله

予防医療の大切さに目を開かれる本:堀江貴文さん『健康の結論』

一昨日、健康診断の案内が自宅に届いていました。最後に健康診断を受けたのは2016年(3年前)。健康にあまり気を使う方ではないですが、こういう案内を見ていると、ふと健康が気になるものです。案内を開いてみると、胃がんの検査がバリウム検査とあり、これだけは避けて他の健康診断は受けようと思い、早速申し込みました。バリウムを飲むことに生理的抵抗感があると同時に、その効果やリスクについていろいろな考え・意見を目にしていたこともあります。大学生のとき、もしくは社会人になってから、バリウム検査を受けたような気がしなくもないのですが、よく覚えていません。

そんなとき、Twitterでフォローしているえらいてんちょうさんの下記ツイートを目にしました。

胃がんとピロリ菌の関係などもネットで目にしたことがあり、読みやすそうな本だったので、すぐにKindleでダウンロードしました。予想していた通り読みやすい本で、自分や周囲の人の健康管理について知っておいた方が良い大切な内容が詰まっていました。

  • メンタル管理や自殺予防について
  • 心臓突然死を防ぐためのAEDの大切さ
  • がんを「予防する」ことの大切さ(ピロリ菌除去・内視鏡検査)
  • HPVワクチンの大切さ
  • 脳卒中による死を予防するために知っておくべき症状
  • 歯周病予防は歯だけではなく、全身の健康を守るために必要 など

健康に普段は気を使わず、不調になったら医者(専門家)に頼る、ということになりがちですが、素人としてこれらの知識を持っておくことで、自分や周囲の人の健康や命を守るのに役立つと感じました。特に緊急の場合には、ちょっとした知識があるかないかで生存確率が大きく変わってしまうということも…。事前にちょっとした知識があるかどうかで、大きなリスクを避けられる可能性があるというのは勉強になりました。

こういった情報がわかりやすく書かれ、普及されていくのはとても良いことだと思います。興味のある方は読んでみてください。

堀江貴文『健康の結論』2018, KADOKAWA

 

 

 

イスラーム国について知るための必読書:中田考先生『イスラーム国訪問記』

中田考先生の『イスラーム国訪問記』を読み終えました。これまでイスラーム国については新聞などで報じられる断片的な情報にしか触れたことがなく、中田先生が書かれた他の本でほんの少しだけ知っていた程度です。イスラーム国がシリアとイラクの一部地域を一定期間実効支配したことは世界的/歴史的大事件であり、詳しく知りたいと思う人は多いのではないでしょうか。

しかし、私たちが得られるイスラーム国の情報のほとんどは、イスラームの知識の無い人の発言もしくはイスラームの知識はあっても現地に足を運んだことのない人の発言が多いという印象でした。そんな中、この本は現地に足を運んだイスラーム学者によって書かれたものであり、ノンムスリム(非イスラーム教徒)の日本人ジャーナリストの訪問記も含めてまとめられています。イスラーム国内で暮らすキリスト教徒へのインタビューも含まれ、カラー写真も掲載されていました。

イスラーム国の支配についてのアラビア語とイスラーム学を修めたイスラーム地域研究者の客観的な報告は一つも存在せず、本書は唯一の例外となる。イスラーム国は二〇一七年にはイラクの本拠地モスルとシリアの本拠地ラッカを失ったため、本書はイスラーム国の支配と国家運営の実態の一端を伝える貴重な同時代資料としてその価値を増している。──中田考『イスラーム国訪問記』

間違いなく、私たちが触れることのできるイスラーム国についての貴重な資料のはずです。

これまで、「彼らはイスラーム教徒ではない」とイスラーム国を批判する声は何度か耳にしましたが、違和感を覚えることが少なくありませんでした。タクフィールの問題(イスラーム教徒が、他の誰かを「不信仰者」と断定することを「タクフィール」と言い、スンナ派では避けるべきのもとされています。このタクフィールこそまさに、過激派と呼ばれる人々が他のイスラーム教徒に行っていることだとも言われます。また、ある行為がイスラーム的に正しいか間違っているかという問題と、行為者がイスラーム教徒であるかそうでないかは別の問題です。これらについて、松山洋平『イスラーム思想を読みとく』に詳しく書かれています)もあるのですが、そもそも「イスラーム国について無知である」上で「断定している」ということに強い違和感がありました。

ともかく、多くのバイアスがかかった可能性のある二次情報・三次情報などではなく、実際に現地に足を運んだ方のリアルな記録からイスラーム国について少しでも知ってみたいという思いで本を手に取りました。

この本ではイスラーム国の人々の生活の一端を知ることができ、また、イスラーム法上の異教徒の扱いについてまとめられており、実際に現地に暮らすアルメニア人クリスチャンへのインタビューが収録されていたのもとても貴重なことでした。インタビューの中には、不満がないわけではないけれども、イスラーム国によって良い(イスラーム国による支配以前と変わらないか、以前よりも良い)扱いを受けているという声もありました。

現地での見聞や現地に暮らす異教徒の声、イスラーム国の成立過程やその意義についてもまとめられているため、イスラーム国について知りたいという方には必読の本だと思います。

食事の写真も掲載されていましたが、美味しそうです。イラク戦争が始まる直前に読んだ『イラクの小さな橋を渡って』に、食べ物が美味しいという記述があったことをふと思い出しました。

知っておいた方がいい生存戦略の指南書:えらいてんちょうさん『しょぼい起業で生きていく』

遅ればせながら、今大注目されている、えらいてんちょうさん(@eraitencho)の『しょぼい起業で生きていく』を読み終えました。この本で示されている「しょぼい起業」という考え方を知っておくことは、「こういう生き方もあるんだ」という大きな安心材料になると思います。

これから就活をしようと考えている大学生、すでに働いている会社員の方、アルバイトをしている方、私のようなフリーランスの方、働いていない方など、どんな方が読んでもヒントが得られる本だと思います。

えらいてんちょうさんのことは1年ちょっと前からTwitterでフォローしていて、「すごく頭の回転の速い人だ」というイメージを勝手に持っていました。そんな賢い人の書いた本が自分の役に立つのか?…と思いつつ手に取りましたが、仕事だけではなく、周囲の人とのつながりや日々の生活まで、いろいろと考えさせられ、役立つノウハウ・考え方が詰まっている本でした。

「とりあえずサラリーマン」という時代の終焉が示され、「しょぼい起業」のノウハウ・考え方が紹介されていきます。実際にえらいてんちょうさんご自身が実践されてきたことであり、リアルな経験とわかりやすい解説で、「しょぼい起業」が自分の身近に感じられるようになっていきます。私などはTwitterも見ていましたので、その内容ともリンクして、すごく現実的なノウハウ・考え方だということが強く感じられました。

「サラリーマン生活がしんどい=落伍者ではない」、「お金を使わなくても楽しいことはたくさんある」、「「店を開くには大金がかかる」は大ウソ」など、「生きるって大変だ」「こうしないと生きていけない、ダメなんだ」という思い込み(=洗脳)が1つ1つ崩されていき、視野が広がっていきます。

ちょうど1年前、私もTwitterで見ていましたが、しょぼい喫茶店さん(@shobokitsu)の例など、「しょぼい起業」が新たな生き方を指南し、選択肢を増やし、実際に人生が変わったという人までいます。「窮屈だ」「生きにくい」と感じている人にとっては、突破口への大きなヒントになるのではないでしょうか。

この本の効用は、具体的なノウハウにとどまらない発想が現実的に示されていて、生きることのハードルが下がってラクになることだと思います。この本を手に取った方が実際に新しいことを始めているという例も、Twitterで目にします。商品として買われて終わるのではなく、本を買ったところから新しい動きが始まっていく、そんな「資本になる本」という、すごくパワフルな本だと思います。


ちなみに、ここ1週間ほど、えらいてんちょうさんのYouTubeTwitter上での動き・発言が面白くて、毎日チェックしています。某サロン、某テレビ番組でのセクハラ批判などなど、とても痛快でした!

『みんなちがって、みんなダメ』

『みんなちがって、みんなダメ』の表紙とノートパソコン

中田考先生の『みんなちがって、みんなダメ』を読みました。今、生きにくいと思っている人にとって、大きなヒントになる本だと思います。

私自身、いろいろなきっかけがあり、あれこれと考えたり迷ったりし、ムスリムになりました。その過程で整理されていなかったさまざまな出来事について、「ああ、こういうことだったんだ」ととても納得がいきました。

大学時代にエーリッヒ・フロムの『生きるということ』を読んで共感したことなどを思いだし、全てがつながっていることを実感しました。

大きな文字で、わかりやすいことばで、どストレートに書かれています。

▼関連リンク

『クルアーン入門』を読了──無知の知を知ることが入門にふさわしい!?

.السلام عليكم

.عيد مبارك

『クルアーン入門』と『イスラーム入門』

ちょうどラマダーンに入った頃、Twitterで『クルアーン入門』という本が出版されたのを知り、取り寄せて読んでみました。

500ページほどの分厚い本でしたが、平易に書かれており、すらすらと読むことができました。

イスラーム入信前から作品社『日亜対訳クルアーン』を読み、入信後はプレゼントしていただいた日本ムスリム協会『聖クルアーン』を読み、ラマダーン月に入ってから再び作品社『日亜対訳クルアーン』を読み進めているというタイミングでした。

デッサンで線を重ねるように、本当に少しずつ少しずつ、何かがぼんやりと見えてくる感覚はありましたが、とても「何かが分かった」という段階には届き得ていませんでした。

読めば読むほど「こんなことが書いてあるとは前回気がつかなかった」という内容に出会い、その間の自分の経験や世界で起きていること、読んだ本で得た知識などと関連付けられ、新たな像のようなものが見え隠れするような感覚です。

最初に読んだ時には何かが分かったかのように錯覚していましたが…。

クルアーンを読む上で、

  1. クルアーンはアッラーの言葉である
  2. クルアーンはアラビア語で書かれている
  3. クルアーン解釈には多かれ少なかれ人間の理性による思考が入り込む

という3つの認識があり、3.はさらに、「他者による思考」と「自分による思考」に分割できると考えています。

クルアーンを読み違えるとすれば、それは3.の段階においてであり、理想を言えば、アラビア語(それは日本語や英語などとの一対一対応の翻訳ではなく、亜亜辞書・イスラーム知識の概念世界から獲得されたアラビア語)を学び、原文と複数の解釈・翻訳を切り離して後者をできるだけ客観・相対化しつつ、参照していくということが求められるでしょう。

途方もなく感じられます。

ただアッラーはわれわれのために易しくしてくださっていること、無理なことは背負わされないということも知っているので、できる限りの努力をしつつ、読み込んでいきたいと考えています。

.انشاء الله

そんなスタンスでクルアーンを読んでいる最中に、『クルアーン入門』が自宅に届きました。

少し前に読んだ『クルアーンを読む』始め、イスラームに関する本を数冊読んで学んだことを復習しつつ、クルアーン解釈の方法の多様性などに圧倒されました。

もともと先達によるクルアーン解釈やクルアーンが啓示された契機の知識には慎重に距離を置くスタンスです。

信憑性の高いものだけを、鵜呑みにすることなく役立ちうる知識としてストックしていくものの、それらはアッラーの言葉ではなく、預言者の言葉でもありません。

史実と言われるものさえ、ある時代のある人間(たち)が、ある立場からある出来事を定義づけているに過ぎません。

100%の正しさが保障されることは現世においてはあり得ないことであり、与えられた能力・環境・情報などを駆使し、できる限りの解釈をし、あとは審判の日の主宰者であるアッラーに委ねる以外に選択肢はありません

ただ今回、クルアーン解釈や啓示の契機などに自分があまりにも無知であったことに気がつき、また、自分の知っている範囲の外側にどれだけ膨大な情報があるのかという一端に触れ、圧倒されました。

また同時に、啓示の契機や多様な解釈に触れることで、よりクルアーンについて理解を深める契機が得られることも感じました。

常に自分の知識の外側と向き合う必要があり、常に「わからない」状態で読み続ける必要があり、「わかった」というごまかしに陥らないことが大切とも感じました。

『クルアーン入門』を読み始める前に、過去に読んだ『イスラーム入門』も読み返しましたが、この本の序文で書かれていることに常に立ち返り、傲慢な自意識に惑わされることなく、今後もイスラームについて学んでいきたいと思いました。

ムスリムであることと、イスラームを理解していることはイコールではありません。ムスリムであるからといって、イスラームの教えを正しく体現しているとは限らず、ましてやイスラームを体現していることにはなりません。誤りを侵さずイスラームを正しく知る無謬な存在は預言者だけであるというのがスンナ派の合意事項です。

…私たちに本当にイスラームが理解できる、と思うのは間違いです。私たちは自分が理解できることを理解するだけなのです。そしてそれで構わないのです。

──中田考『イスラーム入門』(序)

『クルアーン入門』にも『イスラーム入門』にもタイトルに「入門」という言葉が使われていますが、「わからない」ということを知り、「わからない(完全にわかることはありえない)」ことを前提とした上で、学び続けることが必要であると感じ、それこそが自分にとっての「入門」の意味であると思いました。

.الحمد لله